能の魅力を知る 他力本願への祈り-実盛-
2025年5月10日(土)
「他力本願」とは、他者の力、特に阿弥陀仏の力によって救われるという考え方を指します。絶対的な信仰を表す言葉「南無」に続き、仏の名や経文を唱え、人々は自らの力では到底解決できない問題や苦しみに対して無限の慈悲を持つ仏の力を信じ、その救いを受け入れる姿勢を表します。能にも仏の救いを求める作品は数多くあり、中でも今回上演する曲は生きとし生けるものを救うという阿弥陀仏の誓いを仰ぎみる内容です。
五月の能は「実盛」。遊行上人が加賀国篠原で連日説法を行っていると一人の老人に出会い、自分はこの地で討たれ二百余年を経てなお成仏出来ずにいる実盛の亡霊であると明かして消えます。その夜念仏を唱えていると実盛の霊が現れ手向けに感謝し、出陣の様子や手塚太郎に討ち取られた事などを物語り、なおも回向を頼んで消え失せます。元は源氏方であった実盛が時を経て平氏方の武士となり「二股武士」とも言われますが、老いてなお髪を染め戦に臨む、老武者の健気な最期を見せる作品です。
狂言は、浄土僧と法華僧がそれぞれの山の参詣帰りに出逢い、最初は仲良く道連れになりますがライバルの宗派と知って争い始め、宿屋でもけなし合いを続ける「宗論」。今も昔も変わらぬ大らかな日本の宗教感を面白く描きます。
解説 高橋悠介
狂言「宗論」
浄土僧:山本則孝
法華僧:山本泰太郎
亭主:山本凜太郎
能「実盛」
老人/斎藤実盛:友枝雄人
遊行上人:宝生欣哉
里人:山本泰太郎
笛:一噌隆之
小鼓:成田達志
大鼓:亀井洋佑
太鼓:小寺真佐人
後見:中村邦生、粟谷浩之
地頭:香川靖嗣